新規就農者

[未来人材プラス]大黒柱の父が急逝し一貫経営で立て直し 近江牛の聖地で情熱 滋賀県近江八幡市・拝藤達也さん(39)

 滋賀県近江八幡市の拝藤達也さん(39)は、日本三大和牛の一つ、「近江牛」に情熱を注ぐ。結婚を機に地元に戻って親元就農し、現在は繁殖・肥育一貫経営を手がける。大黒柱だった父の死を乗り越え、自身の経営スタイルを確立。「近江牛」の可能性を追求する。

 県東部の近江八幡市と東近江市にまたがる大中(だいなか)地区。「近江牛」の一大産地が形成され、県内飼養頭数の3分の1が地区に集中する。拝藤さんは、そんな“近江牛の聖地”で生まれ育った。実家は、祖父の代に県西部から入植した肥育農家。ただ、「畜産は毎日仕事で休みがない。継ぐつもりはなかった」。高校卒業と同時に地元を離れ、大阪の専門学校に進学。県外で臨床検査技師として働いた。

 転機は、何気なく目にしたテレビ番組だった。畜産業は後継者不足が深刻な上、新規参入が難しく、農家は減る一方──。「自分がやらなければ実家もなくなる。単純だがふいに使命感が芽生えた」。結婚を機に帰郷し、25歳で親元就農した。

 順風満帆ではなかった。33歳の時に父が突然病死し経営を引き継いだが、途端に牛の成績が落ち込んだ。当時は肥育専門の経営だったが、導入する子牛の選定などは父が仕切っていた。同時期に子牛価格の高騰にも見舞われ、経営は低迷した。

 試行錯誤を重ねた。子牛の選定や給餌体系について一から見直した。子牛の導入費や維持費を抑えつつ、一定の肉質を確保できるバランスを追求した。子牛の導入費を抑えようと、繁殖事業も始めた。徐々に経営が安定し始めた。現在は肥育牛220頭、繁殖雌牛40頭、子牛20頭を飼養する。

 現在、地区の若手畜産農家で研究会を組織し、「近江牛」の一層の肉質向上に取り組んでいる。「次世代が中心となって近江牛の価値を一層高めていきたい」