新規就農者

[未来人材プラス]ブランドで直販拡大 福島県猪苗代町・神田忍さん(42)

独学で技術を習得 食味極める米作り
 

 福島県猪苗代町で稲作を営む神田忍さん(42)は、30歳で親元就農した後、書籍などを通じて独学で栽培技術を磨いた。おいしさにこだわる米作りを続け、2022年には世界の米の食味を競う「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で特別優秀賞を受賞。今では直販で順調に販路を広げている。

 大学卒業後はコンサルや築地市場の卸、複合機の販売会社で勤務。コンサルや卸は激務で退職したが、複合機の営業では社内トップ成績を獲得するなど順調だった。家業を継ぐ考えはなかった。

 転機は11年2月の兄の急死。両親と農業を支えていた大黒柱を失ったことで就農を決めた。だが、直後に東日本大震災が発生し、風評被害によって米の売り上げは激減。父に教わり作業を覚える中でも、生き残る道は価格を自ら決定できる直販と考え、食味とブランドを高める経営にかじを切った。

 収量を重視する父とけんかになりながら、書籍や雑誌、新聞などを使い「独学で技術を習得していった」。圃場(ほじょう)ごとに品種や肥料、水管理などを変え、毎年10通り以上の栽培試験も行った。努力が実り、22年には米の国際コンクールで特別優秀賞を受賞。実績を重ねて父の理解も得られた。

 販路開拓では「会社員時代に培った営業力が生きた」と話す。町のスキー場のレストラン、ギフト商社などを訪ねて売り込み、直販サイトも作った。町の人気カフェとコラボした米袋も作成し、若者へのPRにも力を入れた。こうして就農時はなかった直販が広がり、今では販売する米4000袋(1袋30キロ)のうち1500袋を占めるまでになった。

 米の需給環境は厳しいが、「食味やブランドを高め、高値で売れれば無限の可能性がある」と語る。今の目標は国際コンクールで最高となる金賞を取り、さらにブランドを高めることだ。