新規就農者

[未来人材プラス]風景守るため転身 農地集積の受け皿役 交流で深める絆と志 栃木県栃木市 田中誠さん(37)

 栃木県栃木市の田中誠さん(37)は、地域の土地利用型農業をけん引する若手だ。水稲の種子を中心に飼料用米や麦・大豆を約70ヘクタールで栽培。「農村の景色を守りたい」との思いで農業に打ち込み2020年度、農水省などによる全国優良経営体表彰を受けた。

 現在、水稲は「あさひの夢」を58ヘクタール(飼料用43・5ヘクタール、種子14・5ヘクタール)栽培。二条大麦は米麦二毛作も含めて41ヘクタール、大豆は1ヘクタールを作付けする。父・一郎さん(故人)の代では水稲と麦の約20ヘクタールだった規模を、地域の農家との関係を深めることで拡大していった。

 農地は離農者から託されたものも少なくない。田中さんは、種子生産のため徹底した管理などの仕事ぶりから「任せてもいいと思ってもらえたのでは」と受け止める。

 作業効率化で重視するのは農地集積だ。農地を借りる際、よく地域の農家と話し合い、作業性を確保できるよう集積できないか相談。除草剤の散布に使うドローン(小型無人飛行機)やリモコンボート、自動操舵(そうだ)システムを搭載したトラクターなどのスマート農機も積極活用する。

 今は地域の農地の受け皿役を果たすが当初、就農の考えはなかった。高校卒業後、サラリーマンとして鉄工業や電器の製造に約7年携わった。

 就農のきっかけは、一郎さんが高齢になったことや、地域で離農が相次いだことなどだ。「収穫期に金色になる麦畑や、田植えの風景を守りたい」と考え10年に就農し、11年に経営を継承。18年には将来的な雇用を見据えて法人化した。

 苗の病気や新しい栽培方法に挑戦して失敗したこともあるが、先輩農家から助言を受けて営農に励んできた。会社員の頃は地域の農家とあまり関わりがなかったが、今ではすれ違う際にも積極的に話しかけて交流する。

 田中さんは「農家は一人ではやっていけない。支え合い、つながりを持つことが大切だ」と話す。