新規就農者
長野県小谷村の浅見嘉男さん(38)は、脱サラして東京都から移住し、養鶏農家になった。心掛けたのは、地域になじむこと。“村の新卒”だと思い、半年間は声が掛かった草刈りや祭りの手伝いなどを全て引き受けた。その中で養鶏農家と知り合い、事業を引き継いだ。新型コロナウイルス禍で減少した売り上げは、鶏を飼育する様子を紹介する動画の投稿効果で、コロナ禍前からの倍増を実現させた。
東京育ち。大学卒業後も都内の企業で働いたが、業績の停滞で将来に不安を感じた。「人生を会社に投資することへ疑問を抱いた。接客にも疲れて、人の少ない所に行きたかった」。田舎暮らしを求めて2014年、同村に移住。土地と人になじもうと努めたことで「地域について知り、住民と良好な関係を築けた」と振り返る。
知り合った採卵鶏農家が高齢で引退することを知り、継ぐことに。農家の下で1年ほど基本的な飼育方法を学び16年、50羽から養鶏を始めた。
当初は餌代がかかり、利益が出なかった。着目したのは、村内で無料で手に入る米ぬかや隣の白馬村の工場から出るビールかすだ。「田舎は未利用資源の宝庫」。餌に混ぜ、月7万円だった餌代を4万円に減らした。
販売では動画で卵をPRする。コロナ下の外出自粛で、観光需要の高かった道の駅や、A・コープの直売コーナーの売り上げが減少。販路開拓のため、動画投稿サイトに平飼いで飼育する鶏の様子や、田舎暮らしの良さを紹介する動画を本格的に投稿し始めた。動画の効果でネット販売の顧客が増加。売り上げはコロナ禍前の2倍となる1カ月当たり約18万円になった。現在は、飼育羽数を250羽に増やした。
同村に移住した女性農業者と19年に結婚し、翌年には長女が誕生した。「守る存在があると、頑張る力になる。鶏を増やしたので、飼育小屋を拡張したい」と意気込む。