スイスで学んだ農業
よしだ農園は埼玉県所沢市で江戸時代から続く農家だ。代表である吉田昌男さんは東所沢観光園芸センターの代表や観光農園を運営しており、地域農業を牽引している。今回の主役は、そんな父の意思を継ぎ、後継者として就農した息子の吉田明宏さんだ。
幼い頃から家業を継ぐため、農業高校、大学の農学部で学んできた。そんな明宏さんの跡取りとしての軌跡を紹介したい。
「農業以外の違う人生について考えたこともあります。でも、先祖代々土地を受け継いできたからこそ今の自分があるし、父が元気なうちに一緒に畑で作業をしながら農業について学びたい。そんな想いが勝って就農しました」
明宏さんが大学を卒業し、就農のタイミングが来た。すると父・昌男さんは、明宏さんに1年という時間を与えた。何をするかは明宏さんが決めていい。海外の農業研修の話を聞いた記憶を思い出した明宏さんは、スイスで1年間農業研修をすることに決めた。
スイスは独自の農業政策を維持し、EUの中でも先進的な取り組みを行っていることで知られている。複合農業がメインとなるスイスは、「日本の農業と近いのでは」という理由でステイ先に決めた。
「スイスに来て感じたのは、自国への誇りと農業を守ろうという意思です。消費者は積極的にスイス産の野菜を買います。それは、地域の農家が潤うことでで土地の生態系を維持したいという考えに基づいています。農業を、地域全体の事として考えているんです」スイスの文化や考え方に感化され、明宏さんは有意義な時を過ごした。
土地に根付く農業
帰国して就農すると、明宏さんは同世代の若手農業者が集う「所沢市4Hクラブ」に加入した。農業は土地に根付いているため、地域農家とのつながりが大切だと感じたからだ。
クラブ員には農家の跡取りもおり、ちょっとした相談や情報交換もできる。全国の会員と集まる機会もあり、周辺環境の違う農家から刺激を受けることも多かった。
もう1つ明宏さんが影響を受けた場所がある。
所沢市の地産地消を推進する「ところ産食プロジェクト」の活動だった。農家と飲食店が協力して市民においしい地場産野菜を届け、所沢市の野菜自給率をあげる取り組みだ。
飲食店のシェフと話す機会も増えた。やり取りを通じて、シェフが味や形だけでなく明宏さんがどうやって作っているかも見てくれていることを感じた。
「自分の人柄や野菜づくりに対する姿勢も含めて、「おいしい」と言ってもらえる野菜を作りたい。そう強く思うようになりました」
よしだ農場では約20種類の野菜の生産・販売をしているが、2014年から本格的にノーザンルビーという赤いジャガイモの栽培を開始している。これは、もともとは川越農林振興センターからの依頼だったが、地元所沢産の新たな特産品として注目を集めている。アイスクリーム、コロッケなどの試作品を経て、見た目のピンク色を生かそうと2014年に「ピンクポテトチップス」として商品化。発売後1カ月で売り切れるほど人気になった。
現在ピンクポテトチップスは地元所沢の直売所などで販売されており、地域の人から愛される商品となっている。吉田さんは、今後も自分を育ててくれた所沢で農業を発展させたいと意欲的だ。
「後継者の私には、農業に必要なノウハウや農業機械、土地など全てが揃っています。良い環境でやっているからこそ、責任も感じます。これからも味も形も良いものを作って、次世代につなげていきたいですね」