「まずは2年」飛び込んだ農業の世界
就職した農業法人で年商を3倍に増やした立役者がいる。農業法人ゆうゆう農場(神奈川県相模原市)に勤める島田馨子さんだ。
印刷営業、広告代理店、会計事務所と多彩な経歴を持つ彼女が、その経験を生かし、経営面で手腕を発揮している。
業務改善や販促施策といった、農業法人の新しい働き方を紹介したい。
「土に触ることっておもしろい!」そんな純粋な気持ちで農業の世界に興味を持った。
休日に農場を訪れては畑仕事を手伝い、おいしい作物を作るためには、栽培技術、天候、肥料を入れるタイミングなど、考える要素がたくさんあることを知った。「大変だけど、方法が無数にある。これを仕事にしたら面白いんじゃないか」そう思うようになった。
気になったのが収入面だ。一般企業で15年経験を積んできたため、一定の収入があった。ここで普通は「農業で生きていくか、諦めるか」という選択になるが、島田さんは柔軟だった。「まずは2年、働いてみよう。難しいと感じたらまた会社員をやろう」
こうして島田さんの農業人生は、緩やかに始まった。
異業種だからこそ役に立てること
入社後は畑作業を学ぶところからのスタートだったが、少々気になることがあった。
「一般企業に置き換えると“改善できるのにな”と思うような、管理体制やお客様対応などです。現場では栽培や収穫が最優先なので、そうした改善は後回しになりがちですが、異業種からきた私だからこそ役に立てることがあるんじゃないかと思い、畑仕事以外も率先して手を挙げて取り組みました」
島田さんはまず、出荷先とのやり取りに目をつけた。
現場では、天候や生育状態でどうしてもこの日は収穫が間に合わない、という場面がある。島田さんは、そうしたリスクを見越してスタッフ体制を整えることで、納期を厳守できるのではないかと考えた。
作付け後に苗が思うように育たなかった時には、スタッフから話を聞き、生育予測をふまえた栽培管理スケジュールや、不測の事態が起きた時のリスクヘッジも必要だと感じた。
他にも、煩雑だった資料の整理やスーパーや直売所への細やかな対応、そして商品の販売促進にも力を入れた。時には自ら売り場に立ち、野菜のPRをおこなった。
こうした努力が少しずつ実を結び、就農3年目についに年商の3倍増を達成した。
おいしい野菜を知って欲しい
島田さんの成功の秘訣は何だろう。その答えは実にシンプルなものだった。
「私たちが作った野菜を食べて、たくさんの人たちに“おいしい!”と言ってもらいたい。それが私の頑張る活力になっています」
会社員時代は野菜を食べる機会が少なかったが、ゆうゆう農場に入社して土に触る楽しさを知り、知らなかった野菜や新鮮な野菜のおいしさに出会うことができた。
そんな喜びを、多くの人に伝えたいのだという。
「まずは2年、働いてみよう」そんな気持ちで飛び込んだ農業。就農6年目となる今、どう思っているのだろうか。
「これなら農業で生活ができるという手ごたえを感じています。今は農業が本当に面白い。私は就農当時、農業をしたらどれだけ生活が変わってしまうのかと心配していました。でもいざ農業をしてみると、普通に働く日常生活と変わらないと分かりました。農業に興味を持っているけどちょっと不安、という方は、体験や週末農業、期限を決めての挑戦など、少しずつ農業の世界を知ってみてから決めるのも良いのではないでしょうか」