「この会社で働きたい」異国・宮崎で就農を決意
栗原貴史さんは福岡県出身、就農前は東京で公務員をしていた。
農業にはじめて触れたのは大学時代。在籍していた農学部の研修先として、宮崎県の農村を訪れた。そこには「稼げない」「古い」といった農業のイメージを覆す活気があり、農業を「面白そうだな」と感じられた。
就職して社会人生活に慣れてくると、次第に都心での生き方に疑問を感じるようになった。と同時に、学生時代の農業研修の記憶が蘇ってきた。
初心者でも農業をしながら収入を得られる方法を考え、農業法人に勤める選択肢をみつけた。
「まずは農業求人サイトに登録し、50人以上の農業関係者と話をしました。そこで出会ったのが、新福青果(宮崎県都城市)の 新福 朗社長です」
栗原さんが心を動かされたのは、新福青果のビジョンだ。
「手に取りたくなる商品を作る」「参加したくなるような事業を展開する」そして、「農業界に優秀な人材を輩出できるような事業を展開する」
いち早く栽培情報のデータ化に取り組み、「農家の勘」の数値化に挑むなど、先進的な取り組みも魅力的だった。
“農業界を根本から変えていきたい”そんな社長の強い思いを感じた。
「この会社なら、面白い仕事ができそうだ」そう思い、入社を決めた。
宮崎県は異国の地だったが、それよりも「新福青果で働きたい」という気持が勝った。
栗原さんは前職でデータを扱う仕事をしていたこともあり、同社の「ITシステムの見直し」は入社時の特命業務だった。農作業を学びながら、早速データの見直しにも取りかかった。
「今でこそ、“広い圃場を見渡しながら陽の光を浴びて作業している瞬間が至福の時”なんて言えますが、公務員時代はデスクワークだったので、農作業は体力が追いつかなかったです。夏なんか特に辛くて、1日終わるとヘトヘトになっていました」
一方で、東京から宮崎への移住生活は比較的早く慣れることができた。
「私が住む宮崎県都城市は、自然がありながら適度な規模感で地方都市といった感じ。買い物など生活にも困らず、休日には温泉地に車を走らせるという楽しみもでき、住みやすいと感じました」
スマート農業プロジェクトに抜擢!
そんな栗原さんにビックプロジェクトの話が舞い込む。農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト」だ。新福青果は、農機メーカーやシステム開発会社、県の普及センターなどの関係者を集めたコンソーシアムを設立。初心者でも熟練者のように正確に田植えができたり、農機を使いこなせるようになることを目指して実証実験をすることになり、そのプロジェクトリーダーとして栗原さんが任命されたのだ。「最初にGPSを使った自動運転技術を見た時は驚きました。初心者でも効率よく農作業ができるので、これが浸透すれば、人手不足の解消にも期待が持てると感じました」
実証実験が進むと現場の作業効率が上がり、目にみえて変化がみられた。
デジタルの力で農業経営の在り方を変える
就農してわずか3年。今は総務部兼営農部マネージャーに就任し、会社の経営をサポートする仕事もするようになった。仕事に大きな手ごたえを感じている。
猛スピードで経験を積む栗原さんだが、まだ理想とする農業経営には遠いという。
「今はプログラミングの勉強中です。農業は栽培品目、環境、栽培方法など、現場によって条件が異なるので、自分達でも農業アプリを開発することができれば、高いレベルでの運用が可能になるのではないかという思いで取り組んでいます」
栗原さんと新福青果の挑戦はまだまだ続く。