ホームレスの存在と農業課題
野菜の通販サイト、体験農園、そしてホームレスや引きこもりの人の就労支援となる農スクールの運営など、農業を通してさまざまな活動をしている小島希世子さん。
非農家出身の彼女が農業で起業し、農福連携のトップランナーとしても活躍するまでを紹介する。
小島さんは熊本県出身。田畑が広がる農村地帯で育ち、幼い頃から農業に憧れを持っていた。大学進学を機に上京すると、仕事も住む家もないホームレスを見て衝撃を受けた。「関心のある農業界は人手不足。ホームレスに農作業を仕事としてやってもらうことはできないだろうか」そう考えるようになった。
いずれ農業で起業したいという思いを抱きながら、卒業後は農業関係の流通会社に就職し、農業の知識や経験を積んだ。この時、卸などの中間業者が複数いることで、農家と消費者との距離が遠いことを実感した。なんとか農家と消費者との距離が近い売り場を作れないかと、2006年にオンラインショップの設立を決意。小島さんの起業がスタートした。
通販サイトでは、地元・熊本県の契約農家の野菜を販売した。
加えて、リアルの場として農業体験ができる家庭菜園塾の運営に向けても動き出した。
ここでようやく、ホームレスの方に仕事を依頼するタイミングがくる。教室のない日の草取りなど、畑を管理をする人が必要になったのだ。支援団体を通じて3人のホームレスをアルバイトとして雇った。
そして、ホームレスの受け入れ人数を増やしたいと、2009年に株式会社えと菜園を設立して法人化。2011年には神奈川県藤沢市に畑を借り、ホームレスや引きこもりの人の就労支援を「講習」という形で支援すべく「農スクール」をオープンさせた。
農業の新しい価値
農スクールでは、農作業を通して身体とメンタルの向上を目指している。野菜を育てる過程や収穫できたことが成功体験となり、自分の能力を再発見したり、自信を取り戻すことにつながる。
「人は、自分の力で人生を変えていくことで、顔つきや行動が変わってくるんです。そんな変化を日々間近で見守ることができて、私自身も勇気や元気をもらいます」
スクールでの講座は小島さん自身が担当し、農業のノウハウは農家の人から得た情報や自身の栽培経験をもとにアドバイスしている。結果、ホームレスだった人が農家になった事例もでた。
小島さんが手掛けた様々な「点」。それが今、「線」になって新たな展開も遂げている。体験農園の利用者の中から、実際に就農したいと農業を学び始める人が出てきているのだ。小島さんは、農家を目指す「スキルアップコース(農起業コース)」をつくり、独立就農にむけて本格的に農業を学べる体制も整えた。
コースの卒業生には、副業として農業を始めている人も出ている。
小島さんのように生活困窮者や精神的な障害のある人の就労支援をしたいと希望する人も出てきた。
小島さんの次の目標は、就労支援をする人、つまり小島さんの後継者の育成だ。
この畑で自身を取り戻して農業を始める人、小島さんと志を共にする人々が巣立ち、全国で活動をするようになれば、誰かが農業の新しい価値に気付くかもしれない。
そうやって、農業で輝く人が増えていけばと願っている。