憧れからスタートした農業
農業経験ゼロで就農し、山口県宇部市でご主人と共に「まこっこ農園」を運営している女性農家がいる。才木祥子さんだ。3人の育児をしながら、カラフルトマト、白ネギの生産・販売をしている。
大学時代、農家レストランでのアルバイトがきっかけで農業へ憧れを抱いた才木さん。
土に触れて野菜を収穫する楽しさ、それをお客様に振る舞い、「おいしい!」と言ってもらえる喜びーー。それを農家として味わいたいと思った。
大学卒業後は、勉強のためと農業系の出版社に就職した。農家から話を聞くようになると、次第に自分の農業像が固まってきた。「せっかく始めるなら若い方が体力的にも良いだろう」そう考え、同期入社の夫・誠さんと退職し、山口への移住就農に踏み切った。入社から約3年後のことだった。
誠さんが才木さんよりも半年早く山口へ行き、住む場所や農地などの準備を進めた。情報収集の結果、栽培品目はお茶とトマトに決めた。お茶は組合に入ることで栽培方法を教えてもらえ、必要な設備も整う。トマトは需要の高い野菜として選んだ。
自分が目指す農業の姿とは
何とか生活はできるものの、育児もあり出費もある。就農して5年間は貯金が減る一方で、このまま農業を続けるべきか迷うこともあった。
そんな才木さんの転機となったのが、農業経営を学べる「女性農業次世代リーダー育成塾」への参加だ。憧れで就農し、農業経営の意識が無かったことに気づかされた。
早速、目指したい農業の姿について夫婦で考えてみることにした。
10年後、20年後に宇部市小野地区はどうなっているだろうか。何人の農家がいて、どうやってこの農地を管理しているのだろうか……そう考えるうちに、次の世代につなげられる農業がしたいと意識がむいていった。
思い切って農地面積を増やすことを決め、ハウスを含めて1haの農場を持つことにした。これが結果的に経営にも良い影響をもたらした。
「まだ成功したとは言えない」と謙遜するが、まこっこ農園のトマトは甘く、味に定評がある。出荷している生協の店舗には、色鮮やかなトマトと可愛らしいポップが並び、足を止める買い物客も増えた。
一時期は存続の危機にあった才木夫妻。ここまで来られたのは、地域の人々の温かいサポートがあったからだ。収穫量の増える時期には地域の方が手伝ってあげると快く働きに来てくれる。相談すると答えてくれる誰かがいる。
田舎は人間関係が大変だと思われがちだが、田舎こそ困ったときはお互い様の互助の精神が息づいており、人の優しさや温かさに触れる機会が多く自然と笑顔が溢れ、それがまた日々のやりがいにつながっている。
「これからも食べることを楽しくをモットーに、食べることが楽しくなる野菜の魅力や、私から見た農業の楽しさを発信していきたいです。新しい人の流れを作ったりして、地域の人々に恩返しが出来る日がくるといいですね」
前向きな笑顔で語る才木さんを見ると、周りから応援されるのも頷ける。彼女が地域を代表する農家になる日が楽しみだ。