新規就農者
受精卵移植を一手に 鹿児島全共で引き手も
島根県の奥出雲町農業公社で和牛の繁殖に打ち込む川角琴乃さん(22)は、地域の期待を集める若手の畜産技術者だ。働いて2年目で勤め先の繁殖牧場の受精卵移植を全て担当するなど、産地を陰で支える。10月の第12回全国和牛能力共進会(鹿児島全共)では県代表牛の世話役や引き手も務め、歴史ある産地で経験を積む。
川角さんは雲南市出身で実家は農家ではない。動物が好きで、出雲市の県立出雲農林高校の動物科学科を専攻。牛の乳搾りや餌やりに熱中する中で、畜産に関わる仕事に就く意欲が芽生えた。
高校卒業後は、家畜人工受精師や家畜受精卵移植師などの資格を取れる岡山県真庭市の中国四国酪農大学校へ進学。学ぶ中で川角さんの心を捉えたのは、雌牛から受精卵を採取する授業だった。
「雄と雌の組み合わせで子の繁殖能力などに差が出る。県産和牛の血統にも興味が湧いた」という川角さん。将来の道を和牛生産に絞り、2021年に奥出雲町農業公社に就職した。
現在は、子牛80頭と雌牛100頭を育てる同公社馬木繁殖育成センターで牛舎の掃除や餌やりなどを幅広く担当。川角さんが年間30頭の受精卵移植を全て手がけている。体調不良などによる子牛の死に直面し、落ち込むこともある。地域農家らの意見も参考に餌の食い付きや寝ている体勢などに注意し、牛の異常を見抜く観察眼を鍛える。
同県では、産地の維持に欠かせない和牛生産に携わる技術者の世代交代が課題で、川角さんへの周囲の期待は大きい。鹿児島全共では県代表団のメンバーに抜てきされ、引き手としても調教などの経験を積み、他産地の技術も吸収した。
夢は県を代表する新たな種雄牛の造成に携わり、独立就農も視野に入れる。「毎日発見があるのが畜産の魅力。牛に囲まれて毎日充実しているので、産地に尽くしていきたい」と目を輝かせた。
川角さんが学んだ中国四国酪農大学校のウェブサイトはこちら