新規就農者
息子の一言で決意 親元就農し技術継承
四国の中央部、辺り一面を山に囲まれた高知県土佐町。田岡裕未さん(34)は、ユズ農家の父・川井和彦さん(65)が広げてきた3ヘクタールのユズ園を継ぐ。高台と急斜面に植えられているユズは全部で約3000本。全て、父の和彦さんが20年ほど前から、森林関係の仕事と兼業しつつ植えたものだ。裕未さんは、「こんなところまで広げるのかと驚いた」と振り返る。
裕未さんは、デザインを学ぶ専門学校を卒業し、地元で24歳の時に結婚。自然が好きで、地元を出たいと思ったことはなかった。2人の子どもを育てながら、木材加工品のデザインやオンラインでの販売に従事していた。
農家になろうと思ったことはなかったが、和彦さんが広げたユズ園をなくしてしまうのはもったいないと感じていた。そんな裕未さんの背中を押したのは、「ここのユズを将来育てたい!」という長男の澄人君(10)の一言だった。祖父の背中に憧れる息子を見て「うれしいな、将来残せたらなって。そのためには、父との間に誰かおらんと」と、就農を決意。土佐町の親元就農者支援を利用し、3年前に就農した。現在は和彦さんと2人で園地を管理する。
園地の維持には苦労もある。高騰する肥料は、一部を鶏ふんに置き換えた。化成肥料では4日で施用できるが、鶏ふんでは施用量が多いため40日かかる。
「いかに抑えてどこで使うかが大事。できることは自分たちでやる」と話す声は力強い。
「10年後は息子も20歳。夢は変わるかもしれないけれど、父が元気なうちに教わって技術を継承できるようにしておきたい」と前を見据える。ユズの木の下には、膝ほどの高さの幼木が育っていた。「息子が成長したときに、弱った木から新しい木へ交代できているように」と、今年は1500本を接ぎ木する。