新規就農者

新規就農者

[未来人材プラス]農業は「格好いい」 生き方見つけ一歩前に 命を支える喜び実感 兵庫県丹波市 中川清二さん(36)

 バンドマン、雑貨店、草刈り代行、酒造り、花火師、そして農業……。ずっと生き方に迷っていた。「食べる物を作れるって格好いい。天職を見つけた」。兵庫県丹波市の中川清二さん(36)は今年、農業一本に絞る決断をし、専業農家としての一歩を踏み出した。

 名古屋市出身。プロのバンドマンを目指したが、東日本大震災を機に、生き方を見詰め直そうと、27歳でインドに渡った。スラム街で砂利の味がするカレーを食べ、ブルーシートの下で眠る。そんな環境でも毎日笑顔で生きる子どもたちがいた。「力強く生きる姿に強烈に憧れた。生きることの根幹に何とか関わりたいと思った」

 答えは出なかったが、慌ただしい都会から離れようと、インドで出会った友人の縁で、2013年に丹波市に移住。秋冬は酒造会社に勤め、春夏は花火を打ち上げる職人など、季節ごとに興味のある仕事を組み合わせ、試行錯誤を重ねた。

 自分で育てた米で酒を造ってみたい――。17年から始めた酒造好適米栽培で、農業にはまった。1ヘクタールで栽培し、自ら仕込んで商品化。「衣、食、住のうち食だけは、ないと生きられない。自分が生産した食べ物でいろいろな人の“生きる”を支えられる喜びに気付いた」

 黒豆やトマトなど挑戦したい品目は尽きず、徐々に面積を広げた。同時に、地域の担い手は70代以上が中心で、耕作放棄地も目立つなど、地域の農業への危機感も募っていった。「他のことをやっている時間はない」。蔵人や花火師などの仕事に区切りを付け、専業農家の道を選んだ。

 専業1年目の今年は3ヘクタールに拡大し、主食用米や小豆などを栽培する。地域農業を次世代につなごうと、耕作放棄地対策にも取り組みたい考えだ。「何でもっと早く農業に出合わなかったんだろうというぐらい、やりたいことでいっぱい」。ずっと求めてきた生き方が農業で見つかった。