新規就農者
島根県出雲市の茶園「出雲精茶」の代表、岡祐太さん(34)は、日照量が少ないなど山陰の気候に合う茶の栽培法を確立し、“100年後も愛される茶園”を目標に、地元で育まれた茶文化を継承する。テレビ番組の制作会社から茶農家に転身し、全国の産地を巡って茶を研究。葉緑素含量のSPAD値を収穫前に測定するなど、安定して高品質な茶葉を消費者に届ける。
実家は1907年に創業した「桃翠園」。「茶園から茶の間へ」を信条に、茶園を経営し、生産から販売まで手がけてきた。工業化が進み、2000年代は買い付けと販売に専念し、最大3ヘクタールあった茶園は4アールに減った。同社は06年に創業100年を迎え、茶園を再生して地域の茶文化などを守るために「出雲精茶」を設立した。
お笑い好きの岡さんは11年に同志社大学を卒業後、東京のテレビ番組の制作会社に就職。「誰も知らない世界で実力を試したかった」と振り返る。転機は14年の冬。兄の大樹さん(37)から「茶畑を管理できる人間がいない。高齢化も進み、会社に若い人材が必要だ」と相談を受けた。実家の危機に就農を決意。お笑いではなく、茶で人を笑顔にしたいと15年に帰郷した。
就農後は茶葉の品質維持の研究にのめり込んだ。静岡県や京都府など9府県の茶農家を訪ね、肥料の種類や、かぶせ茶の被覆のタイミングなどを学んだ。
品質維持のヒントを鹿児島県の茶農家から得た。葉緑素計を使って新芽のSPAD値を収穫前に測定。品種ごとに平均値をそろえるなど収穫適期を見極め、苦味や渋味が少なく濃い緑色の茶葉を作る。
「やぶきた」「おくみどり」など8品種を栽培する茶園は、東京ドーム約2・5個分に相当する12ヘクタールに拡大。岡さんは「心を通わせる手段として国内外に茶を広げていきたい」と笑顔を見せる。
岡さんが活用した国の「農の雇用事業」の後継事業「雇用就農資金」の解説ページはこちら